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坂本龍一の死に異例の追悼をした中国 “日中友好”の知られざる貢献とは

現地駐在記者が見た中国の政治・経済・文化のいま

毛寧

 

■中国のSNSでも63万人がフォロー。別れを惜しむメッセージが溢れる

 しかしこのような政治的な意図とは別にして、北京にある大手音楽レーベルの会社に長年勤務し中国の音楽事情にも詳しい男性は以下のように述べている。

 「中国でも多くの人は『戦場のメリークリスマス』を通じて坂本龍一氏を知った。海外文化に興味を持ち、文化芸術にも関心が高い人々を中心に一定の知名度があったことは確かです。さらに有料の音楽プラットフォームで彼の最後の演奏が放映されたことで彼と作品を知った人も多いでしょう」と述べる。

 実際に坂本龍一は、中国版Twitterと呼ばれる微博(ウェイボ―)でアカウントを開設しており、そのフォロワーは63万人を超える。彼が死去した後、42日に発表された投稿では、公式Instagramと同じく坂本が好んだ一節「Ars longa, vita brevis(芸術は長く、人生は短し)」という一節が英語、ラテン語、そして中国語(「艺术千秋,人生朝露。」)で記され、生没年月日と朽ちて壊れたピアノに暗闇がフェードインする動画と共に投稿された。

 この投稿では動画は3929万回再生、23.2万回リツイートされて、コメント数は約45000件にも上る。(413日現在)。

 

63万人がフォローする坂本龍一の微博のアカウント。

 

 

 ある中国人ファンは「あなたは、『Merry Christmas Mr.Lawrence』は飽きるほど弾いてきてもう弾きたくない、と言っていました。でもファンが好きだからと、12月の最後のコンサートでも笑顔でこの曲を弾いてくれた。私はそれが最後の演奏であると感じながら、その姿を見届けることができました。世界に坂本龍一さんの音楽があったことに感謝します。安らかにお眠りください」と、コメントしている。

 また坂本龍一は20202月、中国でコロナの感染爆発が起こり、武漢でロックダウンが行われている時に、北京のユーレンス現代芸術センターとコラボをし、オンラインのコンサートに参加した。そこで彼は30分余りの演奏を行ない、さらに演奏の終わりには中国語で「皆、頑張れ!」とメッセージも送っている。この演奏は100万人が視聴したと言われ、その時の彼の演奏に改めて感謝を述べるコメントも見られた。

 坂本龍一の死去により、中国でも彼と彼の遺した作品が改めて評価されるとともに、一部では複雑な日中関係を背景に政治的な意図を持って利用する動きもある。しかし多くのファンのメッセージからも、日本人が想像する以上に、坂本龍一とその作品は中国でも親しまれ、愛されていたのである。

 

文:初田宗久

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初田宗久

はつた むねひさ

香港在住のジャーナリスト

ジャーナリスト、編集者。早稲田大学卒業後、出版社で情報誌から学術系書籍まで20年間編集業務に従事。その後、香港、台湾、中国に渡り、現地で中国語を徹底的に学ぶ。中華圏の様々なニュースから日本の労働問題や芸能事情まで精通し、多くの記事を投稿し注目されている。著者に『ブラック企業やめて上海で暮らしてみました』(扶桑社)、『「中国人の9割が日本人が嫌い」の真実』(トランスワールドジャパン)などがある。香港在住。

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